Xデーを振り返って不思議だったのは、
夫の裏切りを知ってから今まで、あんなに泣いて過ごしたのに、その場では涙が出なかったことです。
泣いたほうが夫に響くのかもしれない──そう思う瞬間もありました。
けれどあのときの私は、もう感情よりも「現実をどう動かすか」ということに必死に気持ちが向いていたのだと思います。
その日の夜も、話し合いで何ができて何ができなかったのか──そのことばかりを考えていて、涙は一滴も出ませんでした。
脳が興奮状態だったのかもしれません。
けれど、Xデーの次の夜。
実家の母から携帯に電話がありました。
母には夫の裏切りについて詳しいことは話していません。
「夫に女がいたこと」「いずれ実家に戻りたいこと」──それだけを伝えていました。
そして、”証拠が揃ったからもうすぐ話し合いをする”、とは知らせていたので、心配して連絡をくれたのです。
「話、できた?」
母に聞かれ、私は答えました。
「できたけど、全然認めてくれなかった……」
そこからは、堰を切ったように言葉があふれました。
これまで老いた母に心配をかけまいと、詳しいことは話さず、実家に帰省したときも普段通りに振る舞ってきました。
母の身の回りの世話をして忙しくすることで、自分の気持ちをごまかしてきたのです。
でも、その夜は違いました。
今の気持ちを母に話し、時にこみ上げる涙をこらえながら、心の内を吐き出しました。
母は黙って聞いてくれました。
母との電話を切ったあと、これまで出なかった涙がとめどもなく溢れ出しました。
これまで張り詰めいていた緊張の糸が切れたのでしょう。
悔しくて、悲しくて、辛くて──夫が認めなかったこと、これからの不安、すべての思いが涙となって押し寄せてきたのです。
声にならない嗚咽を抑えながら、長い間ひとりで涙を流しました。
でも、不思議とそのあと少しだけ心が軽くなっていました。
母に気持ちを聞いてもらえたことで、私の中にたまっていた重たいものが、ほんの少し外に出ていったのかもしれません。
──ただ、その分、母には新しい心配を背負わせてしまったのかもしれない。
それが胸に引っかかっています。
▶ 前回の記事をまだ読んでいない方はこちら →Xデー⑦その場しのぎにすぎなかった夫のサイン
▶ 続きはこちら →Xデー⑨心をえぐられる音の暴力の始まり
※これまでの夫の裏切りの経緯は、裏切りの年表で時系列で確認できます。
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