そして、ついにその日が来ました。
これまで張り込みをしてきましたが、
夫は本当に仕事に行ってそのまま帰ってきたり、
ゴルフのあとも、どこにも寄らずにまっすぐ帰ってきたりしました。
「今日も、なにもないのかな……」
そんな諦めが胸に広がり始めた頃――
夫は、その女の家に向かって車を走らせたのです。
「……行った」
その瞬間、驚きとともに、胸の奥にふっと安堵が広がるのを感じました。
ようやく、ようやく証拠が取れるかもしれない。
長い間苦しみ続けてきたこの現実を、やっと“証明”できる。
その一歩をようやく踏み出せた気がして、
そんな自分に戸惑いながらも、心のどこかでほっとしている私がいました。
でも——その証拠が撮られているまさにその時間、
私は夫のために夕食の準備をしていました。
まな板の上で野菜を切りながら、
火にかけた鍋をかき混ぜながら、
頭の中には
今まさに、夫が他の女と不貞行為をしている――
という想像が、何度も何度も浮かんでは消えました。
わかっているのに、止められない。
目の前の作業は“妻”としての役目なのに、心はもう壊れかけていました。
悔しくて、悲しくて、虚しくて・・。
涙が次々とあふれてきました。
地獄のような時間でした。
調査後、
機嫌よく帰宅した夫の顔を見るのも辛かった。
その隣で夕食を共にすることも。
ついさっきまで他の女を触っていたその手で私に触れられるのが嫌でたまりませんでした。
その日に着ていた服を洗い、干してあるのを見ては
「あの時間のこと」を思い出してしまい、胸が締めつけられました。
それでも私は、証拠を集めるために、何事もなかったかのように過ごすしかなかったのです。
夫のついた嘘に話を合わせ、表情を繕い、日常を演じることがどれほど苦しいか。
問い詰めたい気持ちを飲み込み、週末の予定さえも入れず、夫の動きに合わせる生活。
心も時間も支配されていくようで、私は、静かに壊れていくのを感じていました。
そして、それは一度きりではなく、証拠を確実にするために、何度も同じ時間が繰り返されたのです。
たとえ証拠のためだとしても、あまりにも過酷な現実でした。
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